しいからであろう。
が、もしこのとき、目をうしろにやったとしたら、どうであろう。彼はびっくりさせられるであろう。
艦長が妙な命令を出したのも、じつはうしろをふりむいてびっくりさせないためであったのだ。
それはちょうど出発後四日目のことであった。正吉は、窓の外をのぞく絶好の機会をつかんだ。
通路を歩いていると、頭の上で、へんな声をあげた者がある。
何だろうと思って、正吉は上を見た。
すると、通路の天井の交錯《こうさく》した梁《はり》の上に、一人の男がひっかかって、長くのびているではないか。
「あぶない」
正吉は、おどろいた。放っておけば、あの人は、梁《はり》の間から下へ落ち、頭をくだくことであろう。早く助けてやらねばと思った。
他の者をよぶひまもない。正吉は、傍《かたわら》の柱にとびついて、サルのように上へのぼっていった。木のぼりは正吉の得意とするところだ。
天井までのぼり切ると、あとは梁を横へつたわって進んだ。まるでサーカスの空中冒険の綱わたりみたいだ。
(早く、早く。あの人が梁から落ちれば、もうなんにもならない)
じつにきわどいところで、彼の身体は梁でささえられて
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