は目をぱちくり。


   口ひげのある弟


 人工心臓は、ほんとの心臓と違って、人間のつくった機械だから、ずっと大きい。だから胸の中にはいらず背中にそれをくくりつけてある。
 胸の中から二本の管《くだ》が出て、この人工心臓につながっている。一方は赤くぬってあり、もう一つは青くぬってある。赤い方は、きれいな血がとおる動脈、青い方は静脈だ、そして人工心臓は、その血を体内に送ったり吸いこんだりするポンプなのである。
 昔あったジェラルミンよりもっと軽い金属材料と、すぐれた有機質の人造肉とでこしらえてあるのだと、専門のサクラ女史が説明してくれた。
「こんなものをぶら下げていると、かっこうが悪くてね。正吉や、お前が見ても、へんでしょう」
 と、母親は笑った。
 なつかしい母親の笑顔だった。
「かっこうなんか、どうでもいいですよ。その人工心臓の力によって、もっともっと長生きをして下さい」
「お医者さまは、あたしの悪い心臓を人工心臓にとりかえたので、これだけでも百歳までは生きられますとおっしゃったよ」
「百歳とは長生きですね」
「いいえ。お医者さまのお話では、もっと長生きができるんだよ。百歳にな
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