るアパートメント式の住宅であった。そのうちの一軒の前に立った区長は、扉をこつこつと叩いた。すると中から返事があった。女の声だった。
「あっ、あの声は……」
扉が内にひらいた。家の中から顔を出した白髪頭《しらがあたま》の老女があった。
「まあ、これは区長さん。それにサクラ先生に……」
「今日はめずらしい客人をお連れしました。ここにおられる少年にお見おぼえがありますか」
区長にいわれて、老女は正吉を見た。
「まあ、正吉ではありませんか。うちの正吉だ。まあまあ、正吉、お前はどうして……」
老女は、正吉の母親であったのだ。
「お母さん」
正吉と母親とは抱きあってうれしなみだにくれました。
「お母さん、よく長生きをしていてくれましたね」
「正吉や。お母さんは一度心臓病で死にかけたんだけれど、人工心臓《じんこうしんぞう》をつけていただいてこのとおり丈夫になったんですよ」
「人工心臓ですって」
「見えるでしょう。お母さんは背中に背嚢《はいのう》のようなものを背おっているでしょう。それが人工心臓なのよ」
正吉は見た。なるほど母親は、背中に妙な四角い箱を背おっている。それが人工心臓なのか。正吉
前へ
次へ
全146ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング