あるかというと、わが地球をねらってこちらへ進んでくるふしぎな星があるということだ。それは彗星《すいせい》ではない。その星の動きぐあいから考えると、その星は自由航路をとっている。つまり、その星は、飛行機やロケットなどと同じように、大宇宙を計画的に航空しているのだ」
「へえーッ。するとその星には、やっぱり人間が住んでいて、その人間が星を運転しているんですね」
「ま、そうでしょうね――だからわれわれは、一刻もゆだんがならないというのです。その星はわが太陽系のものではなく、あきらかにもっと遠いところからこっちへ侵入《しんにゅう》して来たものだ。そしてその星に住んでいるいきものは、わが地球人類よりもずっとかしこいと思われる。さあ、そういう星に来られては、われわれはちえも力もよわくて、その星人《せいじん》に降参《こうさん》しなければならないかもしれない。そのような強敵を前にひかえて、同じ地球に住んでいる人間同士が戦いをおこすなどということは、ばかな話ではないか。そのために、われわれ地球人類の力は弱くなり、いざ星人がやって来たときには防衛力が弱くて、かんたんに彼らの前に手をつき、頭をさげなければならないだろう。――それをおもえば、今われわれ人類の国と国とが戦争するのはよくないことである。つまり、『今おこりかかっている戦争はおよしなさい』と警告したのです」
「ああ、なるほど、なるほど、そのとおりですね」
「それが両国にもよく分ったと見えましてね、爆発寸前というところで戦争のおこるのはくいとめられたんです。お分りですかな」
「それはよかったですね。しかし、そんならなぜ、あのようにたくさんの原子弾の警戒塔や警報所や待避壕《たいひごう》なんかが、今もならんでいるのですか」
 正吉には、そのわけが分らなかった。
「いやあれは、あたらしく襲来するかもしれない宇宙の外からの敵が原子弾をこっちへなげつけたときに役に立つようにと建設せられてあるんです」
「ああ、そうか。あの星人とかいう連中も、原子弾を使うことが分っているのですね」
「多分、それを使うだろうと学者たちはいっていますよ――それに、もう一つああいう防弾設備がぜひ必要なわけがあるんです」
「それはどういうわけですか」
「それは、ですね。わが地球人類の中の悪いやつが、ひそかに原子弾をかくして持っていましてね、それを飛行機につんで持って来て、空からおとすのです」
「どうしてでしょうか」
「どうしてでしょうかと、おっしゃいますか。つまり昔からありました、強盗《ごうとう》だのギャングだのが。今の強盗やギャングの中には、原子弾を使う奴がいるのです。どーンとおとしておいて、その地区が大混乱におちいると、とびこんでいって略奪《りゃくだつ》をはじめるのです。ですから、そういう連中を警戒するためにも、あれが必要なのです」
 そういってカニザワ区長は、警戒塔を指さした。
「いやあ、三十年後の強盗団は、さすがにすごいことをやりますね」
 と、正吉少年はおどろいてしまった。


   すばらしい地下生活


 区長さんの話によると、人々は地下に家を持って、安全に暮しているが、事件や戦争のないときにはこうして、大昔の武蔵野平原にかえった大自然の風景の中に自分もとけこんで、たのしい散歩やピクニックをする人が少なくないとのことであった。
「じゃあ、前のような地上の大都市というものは、どこにもないのですね」
「そうですとも。昔は六大都市といったり、そのほか中小都市がたくさんありましたが、いまは地上にはそんなものは残っていません。しかし、地の中のにぎわいは大したものですよ。これからそっちへご案内いたしましょう」
 正吉は、区長たちの案内で、ふたたび地下へ下りた。
 地下といえば、正吉は地下鉄の中のかびくさいにおいを思い出す。鉄道線路の下に掘られてある横断用の地下道のあのくらい陰気《いんき》な、そしてじめじめしたいやな気持を思い出す。また炭坑《たんこう》の中のむしあつさを思い出す。
 だが、区長たちに案内されていった地下街は、まったく違っていた。陰気でもなく、じめじめなんかしておらず、すこしもかびくさくない。またむしあついことなんか、すこしもなかった。それからまた、いきがつまるようなこともなかった。
 だから、まるで気もちのいい山の上の別荘の部屋にいるような気がし、また気もちのいい春か秋かのころ、街道を散歩しているようでもあった。
「それは、ですね。この地下街を建設するためには、あらゆる衛生上の注意がはらってあって私たちが気もちよく暮せるように、いろいろな施設が備《そな》わっているのです。たとえば空気は念入りに浄化《じょうか》され、有害なバイキンはすっかり殺されてから、この地下へ送りこまれます。また方々に浄化塔があって、中でもって空気
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