べども答えずといったような有様に私は少し興味を失いかけて、邸前の空地にあらわれることも何時とはなしに疎《おろそ》かになって行きました。
ところが長々と育《はぐく》まれて来た呪《のろ》いは、遂に最後のカタストロフを導き出すことになったのです。それはもう三月も暮れ、四月に入って学校の授業も一両日中には始まろうという日でした。私は残り少くなった休暇をせめて一日でも有効に使い度《た》いと思って珍らしくも、私の先輩にあたる須永《すなが》助教授を、染井《そめい》の家に訪うために、少し遅い朝飯《あさはん》をしまうと、東中野駅の方へブラブラと歩いて行きました。あれで三四丁もありましょうか、クネクネとした路を通り切って其処は駅まで一本道になっているところまで来ましたとき、見るともなしに向うを見ますと、一寸始めは気がつかなかったのですが、相貌《そうぼう》こそやつれたれ常にかわらぬヒョロ長い細田弓之助氏がこっちへセカセカと歩いて来るではありませんか。私は今少しで大きな声を立てるところでした。驚いたことに細田氏はすっかり痩せてしまって、其の顔は髯《ひげ》こそすってあるが顔の下にある骨のかどかどがはっきり見え
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