んはいつ見てもコドモさんですわねえ」
 と懐《なつか》しがられたものですよ。やあこんな風なことは言わない御約束でしたね。これは失敬。
 其のころ私の家は東中野にありました。中野の辺を省線電車で通りますと、淀橋の瓦斯《ガス》タンクより右の方へ三十度ばかり傾《かたむ》いたところにこんもりとした森が見えますが、あの森の直《す》ぐ下でした。御承知の通り関東一帯に特有な大きい杉の森でして、近所では他のどこの場所よりも高い梢《こずえ》を持っていまして、遠方から見ると天狗《てんぐ》の巣でもありやしないかと思われる位でした。私の家は、その塔《とう》の森と呼ばれる真暗な森と、玉川上水のあとである一筋の小川を距《へだ》てて向い合っていました。どっちかと言うと一寸陰気な、そして何となく坊主頭《ぼうずあたま》に寒い風が当るともいったような感じのするところでした。
 ですから学校に居る間は大学生の中にもこんなふざけ方をして喜んでいる無邪気な奴が居るかと思われるように陽気《ようき》に振舞っていましたが学校がすんでから電車を東中野駅で捨てて、それから家まで五六丁ほどの道のりを歩いて行くうちにいつとはなく考え込んでし
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