った。
「何故さ」私はムッとした。
「そうよ、お莫迦さんに違いないわ。一体あんたは何故あたしの傍に居るんだかよく考えて御覧なさい。あたしはあんたに殺されてしまったのよ。死んだ人間なのよ。その死んだ人間とあんたは肩を並べて歩いているんじゃないの。どうして死んだ人間と並んで歩いて行けると思って? そんなことが出来る場合は、たった一つだけよ。それはネ、あんたも死んでしまった場合なんだわ。つまりあんたは生きていると思っているらしいけれど、本当は夙《とっ》くの昔死んでしまっているのよ。女房殺しの罪で死刑になったんじゃありませんか。ホ、ホ、ホ、ホ」
女房の笑い声が終るか終らない裡《うち》に、今まで歩いていたと思った野ッ原の景色が急に薄れて、いつしかあたりには真白の雲が渦を巻いていた。確かにそれは、あの世の風景に違いなかった。
私は恐怖のあまり其《そ》の場に立ち竦《すく》んだ。
――或る夜の夢より――
底本:「海野十三全集 第1巻 遺言状放送」三一書房
1990(平成2)年10月15日第1版第1刷発行
初出:「読書趣味」
1933(昭和8)年10月創刊号
入力:tatsu
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