ね、ちょっと開けて下さい」
警官の奴、気を苛々《いらいら》しているぞ。何といっても開けるものか。そしてこの間に、すっかり溶かしてしまわなくちゃ。
「だが、殺さなくてもよかったものを」と私はまた後悔の復習をした。
「殺したばっかりに、こんな一所懸命に器械の真似をせにゃならぬ。その上に苦《に》が手の警官までに顔を合わせねばならないじゃないか。何という損なことを私はやってしまったのだろう!」
そのとき入口がパッと左右に開いた。予想のとおり警官の姿が現れた。とうとう入って来たのだ。合鍵で開けたのに違いない。
警官は私の傍に近づくと、無言の儘《まま》、液体を覗きこんだ。
私はウンウン呻《うな》りながら夢中になって白い液体を掻き廻わした。
警官は何にも言わない。何も言わぬだけ、私の心臓は警官の掌《て》のうちに握られているように無気味だった。液体を掻きまわしている腕が気のせいか、何となく利かなくなるようだ。
液面に触れんばかりに顔を近づけていた警官がウムと呻った。私はドキンとした。なんだかチラリと赤いものが、液の中からみえたように思った。だがよくよく見ると、矢張り白い液体が渦を巻いている
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