ひっぱって、うしろの穴から、少年たちは中へはいっていった。
 うす暗い部屋、ぷーンとかびくさい。畳《たたみ》がしいてあるが、すっかりくさって、ぶよぶよである。
 目が暗さになれてくると、少年たちはその部屋のひろいのに気がつき、それと同時に、その部屋のまん中に、鉄格子があるのを発見した。
 鉄格子というよりも鉄の檻《おり》といった方がいいであろう。その鉄格子は、床と天井とをつらぬいていた。
「あっ、檻の中に人がいる!」
 二宮君が悲鳴をあげて叫んだ。
「なに、人だって」
 みんなこわごわ檻の方へ寄って、中をのぞきこんだ。なるほど人が倒れている。洋服を着ている男らしい。何者か。
 四本君がこのとき懐中電灯の光を、檻の中の人の顔にさしつけた。
「おや、骸骨だよ。骸骨が洋服を着ている」
「手も、白骨になっている」
 檻の中で死んでいる人物は、やはり囚人でもあろう。しかも年代がずいぶんたっているらしい。洋服を着ているところから見ると、外国人であろうか、それとも当時の新しがり屋であろうか。
「まさかヤリウスの白骨死体じゃなかろうね」
 六条君がいう。
「ヤリウスはこの屋敷から出ていったのだ。だからヤリウスではないよ」
 五井君の推理だ。
「しかし、この屋敷から出ていったヤリウスから、その後たよりが来たという話もないじゃないか。だからヤリウスがここで白骨になっていても、つじつまはあうわけだ」
 四本君は、とっぴな説をたてる。
 そのとき八木君が檻の中を指した。
「見てごらん、白骨の右手のそばに、手帳みたいなものが落ちているじゃないか。あれをこっちへひっぱり出して、中を読んでみたら、なにか秘密が分るかもしれないよ」
 八木君の発見はすばらしかった。棒を檻の中へさしこんで、その手帳をかきよせた。そしてその中を開いてみると、えらいことが書いてあった。それは今日まで外部には全く知られていない、この時計屋敷の秘密であった。
 要点だけを書きぬいてみると、次のようになるのであった。
「わが犯《おか》せる罪のため、ついに私の上に天罰《てんばつ》が下った。今や私はこの檻の中で餓死《がし》するばかりだ。
 ざんげのために、わがおそろしき罪を記しておく。私は主人ヤリウス様がどこからか持ち出してくる貴重な水鉛の鉱石に目がくれたのだ、私はそれを横領《おうりょう》しようとした。その水鉛のありかも分ったように思ったので、或る夜私はヤリウス様の寝所を襲ってこれを縛《しば》りあげ、地下牢の中へほうりこみ、鉄の鎖でつなぎ、顔にはおそろしい死神の仮面をかぶせた。
 世間に対しては、とつぜんヤリウス様がこの土地を去られたことを告げ、雇人《やといにん》も全部|解雇《かいこ》し一人のこらずこの土地にとどまることを許さなかった。そのために私は相当な金を使った。
 私はひとりとなって後、いよいよ巨万《きょまん》の富をひとり占《じ》めするつもりで屋敷を後にして水鉛の埋蔵《まいぞう》されている場所へ入ったが、それは私の思いちがいで、本当の埋蔵場所ではなかった。私は屋敷へ帰ると、地下牢の囚人ヤリウス様を責めて、その場所を語らせようとしたが、ヤリウス様はなんとしても語らなかった。
 私は金に困ってきたので、やむなくこの屋敷を左東左平に売った。私は金を受取ってこの屋敷を立ちのいたと見せたけれど、実はすぐ秘密の地下道からこの屋敷の中へもどった。
 この屋敷には、ヤリウス様のお好みによって作られた秘密の部屋や通路や仕掛《しかけ》るいがたくさんある。そのことは左平には話してなかったので、私はその秘密の部屋にかくれて暮すことができる。そしてそれからもヤリウス様を責《せ》め、あるいは自分でいろいろ書類などを調べ、水鉛の埋蔵場所を知ろうとしたが、だめだった。ところが、左平はいつどうして気がついたのか知らないが、この屋敷に自分たち家族以外の者がいることをかんづいた。そこで秘密の部屋を探すのに熱心になった。
 探し出されては困るから、私はあべこべに左平をおどかすことにした。いろいろな怪異《かいい》を見せて彼と彼の家族をおどかした揚句《あげく》、先に左平の妻と娘を殺し次に左平を殺した。そして左平の妻と娘は奥の座敷に寝ているようにつくろい、左平は時計の器械のそばで首つりをしているようにつくろったが、すべて私がやったことだ。
 それは、この屋敷に怪談をつくるのが目的であったが、私の計画は図にあたって、村の人々はこの屋敷へはいって来て、左平一家のむざんな最後を見、おどろいてしまった。そして時計屋敷の怪談がひろくひろがったのだ。
 ところが、私にも天罰の下るときが来た。それは私がヤリウス様が絶対秘密にしていた実験室を発見し、それにつづいてその隣りの一室よりこの部屋へ額のうしろからはいれることを知った直後、この部屋の秘密を
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