調べるため、畳をあげようとしたとき、とつぜん大きな音がして天井からこの鉄格子の檻が下りて来て私を中へ閉じこめてしまったのだ。それが私の悪運のつきだった。
それでも私は、この檻から出て生きのびるためいろいろなことをやってみたが、すべてだめであった。屋敷の中にいるのは、地下につないであるヤリウス様と、檻の中の私とだけである。村人はこわがって、誰一人として近づかない。左平をぶら下げた以来とまったままの大時計が、うまく動き出して鳴ってくれ、村人を呼びあつめてくれたらと祈ったが、それもかなわぬことだった。
私は天罰の下ったのを知った。そして今や死にのぞみ、わが罪をざんげして、おゆるしを乞《こ》う。最後ののぞみは、誰かが地下から、ヤリウス様をすくい出してくれることだが、これもはかない望みだ。私はヤリウス様をも同様に餓死させて、最後に主人殺しの罪を加えることになるのだ。そう思うと私は、自分の罪のおそろしさに気が変になりそうになる。
神よ、あわれなるわがたましいを救いたまえ。
明治四年十二月[#地付き]門田虎三郎」
大団円《だいだんえん》
門田虎三郎の遺書《いしょ》だった。
白骨《はっこつ》になって檻の中に倒れているのは、門田虎三郎だったのである。
それは何者であろうか。
記憶のよい読者は、この門田虎三郎が、ヤリウスの家扶であったことをおぼえていられることと思う。
「おそろしいことだねえ」
五人の少年は、目と目を見合わせた。
「しかし、これで時計屋敷の秘密は、ついにとけたわけだ」
時計屋敷の秘密はとけた。
そうであろうか。いやいや、悪人門田家扶の遺書によってとけたのは、この屋敷の秘密の一部にすぎない。門田が知らない秘密が、まだこの屋敷に関してまだまだ残っているではないか。
水鉛鉛鉱の埋蔵場所はどこだ。
ヤリウスの最期はどうであったか。
それと八木君が地下道の奥であった死神の仮面をかぶった怪囚人との間には、なにか関係があるのか。
その二人は同一人ではあり得ない。ヤリウスが今もし生きていたら百歳をはるかに越すわけで、そんなことはあり得ないと思う。
北岸さんたちは、今どこにどうしているのだろうか。あの大時計が四時をうてば大爆発するというが本当だろうか。もし本当ならそれは誰が仕掛けたのか、ヤリウスが仕掛けたものなら、それはなぜであったか。
こうして拾ってみると、この時計屋敷には、まだまだ大きな秘密が残っている。それが全部とける日は、いつのことであろうか。
その一つは、間もなくとけた。
というのは、少年の中で耳のはやい二宮君が、この部屋のどこかで、とんとんとんという音が、かすかではあるがするのを聞きつけたのがはじまりだった。
それと知って五少年は、部屋中を探しまわったあげく、天井の隅のところが震動《しんどう》して、かすかに壁土が落ちてくるのを発見した。
「あッ、天井の上に、誰かいるんだ」
方々探しまわった末、天井の上にあたる部屋から救いだされたのは、永らく行方をたずねられていた北岸をはじめ七人の村人だった。その人たちは、あやうく餓死《がし》の一歩手前で救われたのだった。
腹ぺこのかすれ切った声で、彼らが語ったところによると、七人の村人はこの屋敷の中へはりいこんで、その奇々怪々《ききかいかい》なる部屋部屋を見て歩いているうちに、とつぜん床《ゆか》が落ち、あッという間に一同はこの部屋へ落ちこんだのだ。出るには壁が高くて出られず、そこで一同は今までそこに閉じこめられていたのだという。
北岸たちは、この屋敷を一刻も早く出たがった。日の光を見、いい空気をすいたい。それから、うまい水ものみたい、と少年たちに訴えた。
そこで少年たちは、北岸たちを両わきから抱《かか》えて、時計屋敷の外へつれだした。それがために、少年たちはいくども往復しなくてはならなかった。
その仕事の最後は、北岸を、八木君と四本君が抱きかかえて出ることだった。その三人が、屋敷の窓から外へ出たとき、とつぜん地震が襲来《しゅうらい》した。
かなり強い地震であったが、前に起った地震の余震《よしん》であるにちがいなかった。
その話をしながら、三人が庭の方へすこし歩いたとき、八木君が、
「ちょっと、しずかに」
と、おどろいたような声を出し、それから、北岸さんの身体から手を放すと、その両手を耳のうしろへひろげ、くるっと頭をあげて大時計を見上げた。
かち、かち、かち、かち……。
かすかながら、聞えてくる音があった。
「たいへんだ。大時計が動いている。早くにげなくては……」
大時計が動き出したのは、今の余震《よしん》で、振子をしばっていた古い紐《ひも》がぶっつりと切れ、それで振子は大きくゆれだしたのだ。
「たいへんだ。時計屋敷が爆発するぞ、溝
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