った。
「すみません、あなたは、ぼくの生命の恩人《おんじん》です。その恩人に対し、ちょっとの間でも、ぼくがおそろしそうに、後へ身をひいたことはおわびします」
「その心配、いりません。私、おそろしい仮面をつけています。私の姿、おそろしいです。君がにげようとしたこと、むりではありません。しかし、私、悪者《わるもの》ではありません。不幸にして、悪人のためにとらわれ、ここに永い間つながれているのです」
「ああ、そうでしたか、いったい、どうしてそんなことになったのですか、あなたは、どこの何という方ですか」
「くわしい話、あとでいたします」
「今、話して下さい」
「今、話すこと、よろしくありません。そのわけは、たいへん急ぐ仕事があります。そしてその仕事は、きみの力でないと、できないのです」
怪囚人は、そういった。しかし八木少年にはのみこみかねた。急ぐ仕事というのは、いったい何のことであろうか。これをたずねると、怪囚人は、こういった。
「おどろいてはいけません。この屋敷は、このままでは、あと一時間とたたないうちに、大爆発《だいばくはつ》をして、あとかたもなくなってしまいます」
「えっ、この時計屋敷が、あと一時間とたたないうちに大爆発をするんですって、それはたいへんだ。この屋敷には、たくさんの人たちがまよいこんでいるのです。ぼくの友だちも四人、この屋敷にはいっています。そういう人たちを助けてやらねばなりません。ああ、そうだ、その前に、ぼくはあなたを助けます」
「お待ちなさい、その人たちを助けること、なかなか困難《こんなん》と思います。それよりも、君に急いでしてもらいたいことは、その大爆発が起らないようにすることです」
「なんですって、この屋敷の爆発が起らないようにすることも、まだ出来るんですか。それはどうすればいいのですか」
「それは、今動いている大時計をとめることです」
「えッ、あの大時計をとめるって……あ、大時計は動いているんですね。いつ、あんなに動きだしたんだろう」
八木少年は、どこからともなくひびいて来る大時計の時をきざむ音に、はじめて気がついて、おどろいた。
「大時計は、すこし前に鉦《かね》を三つうちました。このままでは、あと一時間ばかりして、四つうつでしょう。四つうてば、この屋敷は、こなみじんになるのです」
「それはどうしたわけですか」
「わけを説明しているひまはありません。君は早く大時計をとめて来るのです」
「いったい、どうすれば、あの大時計をとめることが出来るのですか」
「子供の力では、出来ないかもしれぬ。いや今、君に行ってもらう外に、方法はないのだ。もっとこっちへよりなさい。大時計の仕掛はこうなっている……」
と、怪囚人は、鉄の壁へ、釘《くぎ》の折《お》れで、大時計の図をかきだした。
大発見
話は、四人の少年たちの方へうつる。
地震のあとで、放《ほう》りこまれた部屋の一方の壁がするすると上にあがって、そのむこうにあらわれたのは、ほこりの積った古風な実験室みたいな部屋であり、そこに一つ額縁《がくぶち》が曲ってかかっていたが、その中の油絵はまん中が切りとられていて、なかったこと、そしてそれはどうやら人物画らしいことなど、すでに諸君の知っているところである。
「おどろいたね。どこへいっても、からくり仕掛ばかりの屋敷だ」
あまり物事におどろかない五井少年も、こんどはおどろいた様子。
「なんだろう、この部屋は。錬金術師《れんきんじゅつし》の部屋みたいだが、おい、四本君。これは君のお得意《とくい》の科目だぜ」
六条が、四本の背中をつっつく。
「ふん。たいへん興味がわいてくるね。でも、ぼくには、これがなにをする部屋だか、さっぱり分らないよ。どこから調べたらいいのかなあ」
四本は、部屋の中を歩きまわる。
もう一人の二宮少年は、あいつづいて起るおどろきの事件に、すっかり心臓を疲らせたと見え、ふだんのお喋《しゃべ》りがすっかり無口になって、青ざめた顔で、みんなのそばを離れまいとして、ふうふういいながらついてくる。
「ははあ、こんなものがあったぞ」
四本が、とつぜん頓狂《とんきょう》な声をあげたので、のこりの少年たちは、彼の方へ寄っていった。
「これは何だか分るかい」
と、四本が、棚に並んでいたガラス壜《びん》の一つをとりあげて、みんなに見せた。中には、黄いろ味をおびた、やや光沢《こうたく》のある結晶している石がはいっていた。
「知らないね。いったい、それは何だ」
「これは、昔から日本にもあるといわれてたが、そのありかはなかなか知れていない水鉛鉛鉱《すいえんえんこう》だよ」
「すいえんえんこう、だって。それは何だ」
こうなると四本の話をだまって聞くより手がない。
「これは昔たいへん貴重なものとして扱われた鉱石なん
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