こたわっているという例のものすごい光景を見るのではないかと思っていた。
 ところが、その予想ははずれた。
 少年たちが見たものは、古ぼけた洋風の実験室らしいものだった。
 いくつかの台があり、その上にいろいろの形をしたレトルトやビーカーや蛇管《じゃかん》が、それぞれの架台の上にのっている。たくさんの壜《びん》がある。
 古い型の摩擦電気《まさつでんき》を起す発電機らしいものもある。炉《ろ》らしいものもある。ふいごが三つもころがっている。
 棚《たな》には、本や薬品の壜らしいものも並んでいる。椅子が一つ横たおしになっている。他の腰掛《こしかけ》は、ちゃんとしている。
 壁に、額縁《がくぶち》が一つ、ひんまがって掛っているが、その中には、かんじんの絵がはいっていなかった。いや、はいっていないわけではない。そこにはいっていた油絵らしいものが、切りとってあった。それは肖像画《しょうぞうが》らしかった。

   八木君目ざめる

 話は、八木のことにもどる。
 八木君は、空井戸《からいど》の中にひとりぽっちとなり、心細くなっていた。空井戸の底から上を見上げたとき、井戸の上あたりで、鬼火《おにび》が二つおどっているのを見て、びっくりした。そこまでの話は、前にしておいた。
 八木君は、肝玉《きもたま》のすわっている方であった。けれども、青白い鬼火がふわふわと宙におどっているのをこんな場所でしかも心細いひとりぽっちで見物したんでは、あまりいい気持ではない。
「あああァ……」
 と、八木君は声をあげて、地下道をまた奥の方へ逃げこんだ。
 そこで彼は小さくなって、土の壁にもたれてかがんでいた。恐ろしさに気がつかれ、その上に、ここへはいってからの活動のつかれも一時に出て来て、八木君はいつとも知らず睡りこんでしまった。
 それからどのくらい時間がたったか、八木君は知らなかった。
 夢の中に、カーン、カーン、と天主教会《てんしゅきょうかい》の鐘がなるひびきを聞いた。大司教《だいしきょう》さまが、盛装《せいそう》をしてしずしずとあらわれた。と、下から清水がこんこんわき出して……。
「あッ、水が出てきた」
 八木君は目をさました。
 気がついてみると、あたりは水だらけになっている。お尻《しり》も足も、水づかりだ。
 なぜ急に、こんなに水が出てきたのか。
 八木君は、立ち上った。そして足もとに注意
前へ 次へ
全40ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング