し、耳をすました。水は、だんだんふえて来る様子だ。すこしはなれたところで、どうどうと音がしている。それから水がわいて来るものらしい。
「このままでは、溺《おぼ》れてしまう、なんとかして、水の出るのをとめることはできないかしらん」
 八木君は、この期《ご》におよんでも、あわてることなく、冷静を保《たも》っていた。
 ざぶざぶと水をわたって、八木君は、水のわいてくると思われるところへいってみた。
 あいにく、まっくらで分らない。
 彼が持っていた懐中電灯は、いつの間にか水づかりとなって、ボタンをおしてもあかりがつかなかった。
 そのくらやみの中で、八木君は足でさぐりながら、出水口の様子をしらべた。
「うむ、すごいいきおいで、水が下からわいてくる。これはきっと、上にタンクがあって、タンクの水がながれこんでくるんだな」
 あとで分ったことであるが、これはタンクにたまった水と同じような種類であるが、じつはそれとはくらべものにならないほど多量の水をたくわえているところから、こっちへ流れこんで来たのである。それは泉水《せんすい》の大きな池であった。
 そうでもあろう、水のいきおいはもうれつであった。とても水の出口をふさぐことはできないことが分った。たとえ八木君が、自分のお尻をそこへ持っていって、出口を力いっぱいふさいだにしても、一分間ももちきれないであろう。
 さすがの八木君も、すこしあわてないわけにはいかなかった。
 また、ざぶざぶと水をわたって、空井戸《からいど》の下へ行ってみた。そして上へ向けて「おーイ、おーイ」とよんでみた。
 だが、それを聞きつけて、井戸の上に姿を見せた者はひとりもなかった。
(おいてけぼりになって、こんなくらいところで土左衛門《どざえもん》になるのか、いやだなあ、うん、もっと、頭をはたらかせて、逃げ出す道を探そう)
 絶望におちいりやすくなった自分の心を一所けんめい激励《げきれい》して、八木君は、はじめいた奥のところへもどってきた。
 そこには、上からわずかながらも、あかりが照らしている。開きそうもないが、扉がある。また人だか鬼だか分らないが、頭の上の厚いガラスの板の上を、何者かが歩いているのを見たことがある。八木君は、そこからなんとかして死地を脱する道を発見したいものだと考えた。
 はたして、それはうまくいくであろうか。

   水地獄

 八木君は
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