|瓶《びん》の中に水を張ったのでは、大伴《おおとも》の黒主《くろぬし》の手を借らずとも、今日5098の文字は消え失せているに違いなかろう。
 さて、その次は、

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四、寝台《シンダイ》。木ヲ組合ワセテ作リタル丈夫《ジョウブ》ナルモノ。台ノ内側又ハ蒲団綿《フトンワタ》ノ中に、朱筆《シュヒツ》ヲ以テ6033ト記シタル唐紙片《トウシヘン》ヲ発見セラルベシ。
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 途方《とほう》もない騒ぎとなった。租界中の誰も彼もが、白い綿ぎれ、鼠色《ねずみいろ》の綿ぎれ、鼠の小便くさい黒綿《くろわた》ぎれを頭からかぶって、何のことはない綿祭りのような光景を呈した。
 黄浦江《こうほこう》は、あの広い川面《かわも》が、木製の寝台を浮べて一杯となり、上る船も下る船も、完全に航路を遮断《しゃだん》されてしまって、船会社や船長は、かんかんになって怒ったが、どうすることも出来ない。しかし乗客たちは、安全に陸に上ることが出来た。その浮かべる寝台の上を伝《つた》い歩いて渡った結果……。
「おい、あの金博士め、けしからんぞ」
「なんだなんだ、なぜ、博士はけしからんのか」
「わし
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