ぐさりと燻製肉の一|片《きれ》を切り取り、口の中へ放り込んだ。
「いかがでございますな、お味のところは……」
秘書が心配そうに聞いた。もしこれが博士の気に入らないと、博士はまた八つ当りの体《てい》たらくとなり、大暴れに暴れまわるに相違ないからであった。
「うん、どうも脂《あぶら》がつよすぎるようじゃ」
博士は、やや物足りない顔である。
そういうときは気をつけないと、突然博士は怒って乱暴を始める虞《おそ》れがある。秘書はここで博士の機嫌を損じては大変だと思い、なんとか博士の注意力を他へ外《そ》らせたいものと考え、
「ええ博士、さっきお電話を拝聴《はいちょう》していますと、劉洋行とお話の途中に、何者かお電話を横取りにした者があったようでございますな」
「うん、あれか。あれは、後で気がついたが、シンガポール総督《そうとく》の声じゃった――ううん、もうすこし味が何とかならんものか……」
「で、その何でありますが、そうそう、あの電話中に、長期性時限爆弾の大きさについてのお話がありましたが、極く小《しょう》なるものに至ってはコンパクトぐらいだそうで……」
「そうだよ。どうもこの味がもう一歩…
前へ
次へ
全25ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング