してございます」
「おお、待ちかねた。今、そこへ行くぞ」
食事の用意が出来たと聞いた途端《とたん》に、博士はまるで条件反射の実験台の犬のように、どうと口中に湧《わ》き出《い》でた唾液《だえき》を持てあましながら、半《なか》ば夢中になって隣室へ駆け込んだ。
「いやあ、これは偉大だなあ!」
卓子《テーブル》に並べられた大皿を見て、博士はまず驚嘆《きょうたん》の声を放った。そうでもあろう。胴のまわり一|米《メートル》三、厚さ十|糎《センチ》というでかい蟒の胴を輪切りにした燻製が、常例《じょうれい》ビフテキに使っていた特大皿から、はみ出しそうになっているのである。
博士は、椅子にかけるのも待ち遠しく、ナイフとフォークとを取り上げて皿の中をのぞきこみながら、
「うふふん。どうもこの燻製の肉の色がすこし気に入らぬわい。こんなに黝《くす》んでいるやつは、肉が硬くていかん。こいつはきっと、煙っぽくて、喰っている間に、咽喉加答児《いんこうカタル》を起こすかもしれんぞ」
こと燻製ものについては、博士は仲々くわしいのであった。
ちゃりんちゃりんナイフを磨《と》ぐ音がした。博士はナイフをひらめかして
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