」
博士は、電話をかけながら、ごくりと生唾《なまつば》をのみこんだ。
5
それから一時間ばかりして、待望の蟒《うわばみ》の燻製《くんせい》が、金博士の地下邸《ちかてい》へ届けられた。
秘書が、そのことを博士に知らせにやってきた。
「うふふん。お前の知らせを待つまでもなく燻製をもってきたことは、ちゃんと知っておるわい。それよりも、早く卓子《テーブル》のうえに皿やフォークを出して、すぐ喰べられるようにしてくれ。ぐずぐずしていると、おれは気が変になりそうじゃからのう」
博士が燻製にあこがれること、実に、旱天《かんてん》が慈雨《じう》を待つの想いであった。秘書は、びっくりして、引込《ひっこ》んだ。
「とうとうありついたぞ、燻製に! 燻製の蟒――蟒は、ちょっと膚《はだ》が合わないような気もするが、しかし喰ってみれば、案外うまいものかもしれない。そうだ。時局柄《じきょくがら》、贅沢《ぜいたく》はいわないことじゃ。それにしても、あの秘書め、何をぐずぐずしているのじゃろう」
カーテンの向うから、秘書の咳《せ》き払《ばら》いが聞えた。
「おほん、食事の御用意が整《ととの》いま
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