、何よりも先ず、その日の紙面に、金博士の広告文がのっているかを確め、しかるのちまた寝台にのぼって、改めてすやすやと睡りを貪《むさぼ》るという有様《ありさま》だった。
こうして住民は、二十九日爆弾の影に怯《おび》え、三十日爆弾を噂し、三十一日爆弾の有無《うむ》を論じ、一日《ついたち》爆弾に賭けるというわけで、ついに金博士の時限爆弾は、住民たちの生活の中に溶けこんでしまった、という罪造《つみつく》りな話であった。
その間にも、金博士に、なんとかして面会のチャンスを掴《つか》もうとする決死的訪問客は、入れかわり立ちかわり博士の地下室に殺到《さっとう》したのであるが、博士は常に油断をせず、ついぞ彼等の前に姿を現したことがなかった。
しかしながら、博士も木石《ぼくせき》ではない。一週間も二週間もこんなところに籠城《ろうじょう》しているのに飽《あ》きてきた。
4
或る日、博士は瓶詰のビスケットと、瓶詰のアスパラガスとで朝飯をとりながら、ふと博士の大好きな燻製《くんせい》もののことを思い出した。
「やあ、鮭《さけ》の燻製でもいいから、ありつきたいものじゃな。うちの冷蔵庫の隅
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