に尻尾ぐらいは残っていそうなものだ」
 博士は生唾《なまつば》をごくりと呑みこみながら、秘書を呼んで冷蔵庫を探させた。
「先生、尻尾どころか、鱗《うろこ》さえ残っていません。絶望です」
「ふーん、そうかね。ふふーん」
 博士の失望落胆《しつぼうらくたん》は大きかった。博士は、大きな頭を、しばらくぐらぐら動かして考えていたが、
「おい、秘書よ。劉洋行《りゅうようこう》へ電話をかけてみい。あそこなら、すこしは在庫品《ざいこひん》があるかもしれん」
「先生、外部への電話は、一切かけてはならないという先生の御命令でしたが、今日はかけてもいいのですか」
 かねがね電話使用を禁じたのは、例の時限爆弾のことで、博士に面会しようという輩《やから》に乗《じょう》ぜられるのを恐れてのことであった。しかしながら、こうして燻製を想い出した今となっては、もはやそんなことをいっていられない。幸いにも、人の噂も七十五日という、そこまでは経っていないが、あれからもう三週間もすぎていることゆえ、多分もう大丈夫だろうという予想もあって、博士は遂《つい》に電話を外へかけさせたのである。
 劉洋行の店の者が、電話口に出て来た
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