あるといわなければならない。
 そのころ、当の金博士はどうしていたかというのに、彼は常住《じょうじゅう》の地下室から、更に百メートルも下った別室に避難し、蟄居《ちっきょ》してしまった。それは、二十六日の爆弾の破片から身をのがれるためではなくて、博士が十五年前に装填《そうてん》した長期性時限爆弾に関して、問い合わせに殺到した官界財界その他ありとあらゆる職業部面の、概算《がいさん》三千人の群衆からのがれるためであった。なにしろそういう人々は事《こと》生命財産に関係することだとあって、衣服が破れ、鼻血を出し、靴の脱げ落ちることなど一向《いっこう》意に介《かい》せず、文字どおり博士めがけて殺到したこととて博士がそのままこの群衆を引受けようものなら、博士はぺちゃんこになってしまったかもしれないのである。
「やあ、皆、こっちへ戻れ、不発弾が、なに恐ろしい、戻れというのに……」
 と、エディ・ホテルの前で、不発論を守って、逃げ行く不甲斐《ふがい》なき民衆を呼び戻しているのは例の咄々《とつとつ》先生であった。
「おい、皆よく聞け。五時間や十時間先に爆発する時限爆弾ならいざ知らぬこと、一体、十五年間も先
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