は強いですよ。まだ二回目だからな。では、お静かに」
そう言って、院長は部屋を出ていった。あとには看護婦が残って、手術器械をカチャカチャと片づけているばかりだった。
「あ、そんなに――」
頓狂《とんきょう》な声を上げて、看護婦が飛んできた。
「お動きになってはいけません。痛みますか。もし……」
目を閉じていた半平の顔のあたりに、若い女の体臭がむんむん匂《にお》ってきた。彼は昂奮《こうふん》で締めつけられるようだった。狡《ずる》く目を閉じたまま、嗅覚《きゅうかく》で若い看護婦の全身を舐《な》めまわしている半平であった。
「声を出しちゃ、いけませんよ」
看護婦の熱い呼吸《いき》がいきなり半平の耳もとでしたかと思うと、彼の一方の手首はぎゅっと握られてしまった。
「これを、あとでお読みになってください!」
「※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」
半平はことの意外に驚いて、看護婦の顔を見上げた。
「おお……」
彼はもう少しで大声を出すところだった。逃げるように急ぎ足で部屋を出ていくその看護婦の肉づきのいい顎《あご》の右側に、黒大豆をそっと貼《は》りつけたような黒子が明らかに認められた。
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