観相家の話を聞いたんだが、きみ、幸運の黒子《ほくろ》というのがあるんだ。顔にできている黒子といえば普通、鼻筋を中心として左側にあるに決まっていて、右側にあるのは非常に稀《まれ》なんだそうだ。そう言われて気をつけて人の顔を見ていると、なるほど顔の黒子はみな左側にあるね。ところで、右側に黒子のある人間が全然いないかというと、そうでもないのだ。極めて稀だが、あるにはある。そして右側に黒子のある人はたいへん幸運なんだそうだよ。きみもいつまでも鰥夫《やもめ》でいずに、今度は幸運の黒子のある若い女でも探し当てて再婚してはどうかね」
たいへん耳寄りな話だった。
自分の顔に幸運の黒子を植えつけるわけにはいかないが、鮮やかな幸運の黒子を持つ若い女を女房に持てば相当運が向いてくるだろう。
「そりゃ本当かい」
半平は問い返さずにはいられなかった。
「神龍子の言うことだもの、絶対に信用が置けるさ」
友人は半平の懐疑を嘲《あざけ》るように言った。
「それでも、五分間ほどこのまま安静にしていてください」
院長は注射器とアンプルの殻とを、看護婦に手渡しながら言った。
「最初のうちは、どうしても注射の反応
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