その妖怪は雪どけの水が落ちて、水溜を作っているそのそばにいた。はじめは蛙《かえる》の子がうごめいているように思ったが、蛙の子にしてはすこし変なので、よく見ると、それはふしぎにも人間の形をしたものであった。が、人間ではない。背丈が二三センチに過ぎなかった。
私は胸がどきどきして来た。めずらしい発見を喜ぶと共に、うす気味がわるい。が、私はこの微小人間をぜひとも採集して行こうと思い、ピンセットを出して、彼の胴中《どうなか》を挟もうとした。
するとその微小人間は、身体に似合わぬ大声を出して、そんな乱暴をするなと私を押し停《とど》め、自分は逃げるつもりはないから、安心し、吾《わ》れと語れといった。
私たちは、それからふしぎな会話をつづけた。その微小人間は、自分はヤナツという者だがと名を名乗り、自分たちは、やがて君たち現代の人類が滅亡したあとにおいて、人類に替って地球上の最高智能生物となり、地球を支配するのだと大真面目でいった。
私は滑稽を感じて、もうすこしで噴《ふ》き出すところだったが、辛《かろ》うじて耐えた。こんな蛙の子みたいな妖怪に、わが人類のあとを継がれてたまるものかと思った。
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