ものがあった。
地底へ下りれば、敵の地底兵団あり、地上へ出れば、敵の空中兵団あり、上と下とからの抱合《サンドイッチ》兵団の攻撃にあっては、われわれは上《のぼ》りも下《くだ》りも出来ず、文字どおり進退谷《しんたいきわ》まってしまった次第である。
「ああしまった」
ああ痛い。とんだ愚痴《ぐち》をのべている間に、私は折角《せっかく》二日がかりで登った八メートルばかりの縦井戸を下に滑《すべ》りおちてしまった。でも幸《さいわ》いに、そこで地下道が水平に折れ曲っていたからそれ以上墜落しないですんだ。もう愚痴はよそう。そして私は、もう上るのも降りるのもよした。もうその気力がない。前途に対する希望は、ここでしずかに餓死《がし》するばかりである……。
と考えこんでいたとき、不意に私の肩を突付《つっつ》く者があった。私はびっくりして目を開いた。すると目の前に、逞《たくま》しい顔の青年が、前屈《まえかが》みになって、私の顔をのぞきこんでいた。
「おお、君は洪《こう》君」
「そうです、洪です。先生、ぐずぐずしていられませんぞ。私と一緒に逃げてください」
「君の親切は感謝するが、もう迚《とて》も駄目だよ。
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