かてこて》に縛りあげてしまった。
博士は身震いして、ヨロヨロと立ち上ったが、そこに引きすえられた怪漢の顔を見ると、
「椋島君、お気の毒じゃな」と、薄気味のわるい笑顔をズッと近付けた。
翌朝の新聞紙は、一斉に特初号活字、全段ぬきという途方もない大きな見出しで、「希代の科学者|鏖殺《おうさつ》犯人|遂《つい》に捕縛《ほばく》せられる。犯人は我国毒|瓦斯《ガス》学の権威椋島才一郎」などと、昨夜の大事件を書きたて、彼の現場に於ける奇怪な行動や、精密な機械類の写真などが載った。帝都は鼎《かなえ》の湧《わ》くがように騒ぎ立ち、椋島が収容せられたという市ヶ谷刑務所へは、「椋島を国民に引渡せ」というリンチ隊が、あとからあとへと、入りかわり立ちかわり押しかけては、時代逆行の珍現象を呈した。それを鎮撫《ちんぶ》するのに、陸軍大臣に麻布《あざぶ》第三連隊に総動員を命ずるという前代未聞の大騒ぎが起ったのであった。
しかし、新聞紙面には、曩《さき》に行方不明になった松ヶ谷学士や、家出をした鬼村真弓子のことについては、一行も報道していなかったばかりではなく、昨夜、活躍したおキミの消息も、それから又おキミの信
前へ
次へ
全37ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング