、諸君もかねてお聞きおよびかと思う例の心霊《しんれい》研究会で、有名なるN女史という霊媒《れいばい》を通じて、作者がその亡友から聞いた告白なのである。その告白は、実に容易ならざる国際的怪事件を語っているので、命中率九十パーセントと称せられる霊媒《れいばい》N女史の取扱ったものだから充分事実に近いものだとすると、この怪事件は公表するには余りに重大な事柄で、或いは公表を見合わせた方が当《あた》り障《さわ》りがなくてよいかも知れないくらいなのである。しかし一方に於《おい》て、N女史の招霊術《しょうれいじゅつ》は、単なる読心術《どくしんじゅつ》にすぎないという識者《しきしゃ》もあるようだから、それなれば、N女史の前に坐った作者の心中《しんちゅう》にかくされていた妄想《もうそう》が反映したのに過ぎないとも云えないこともないのである。兎《と》も角《かく》、そこのところは諸君の御判断におまかせするとして、怪事件の物語をはじめようと思うが、一種の実話であるだけに、筋ばかりで、描写が充分でないのは我慢していただきたい。

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 古ぼけた大きな折鞄《おりかばん》を小脇にかかえて、やや俯《うつむ》き加
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