国際殺人団の崩壊《ほうかい》
海野十三
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)作者《わたくし》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)大変|可笑《おか》しい
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)ごま[#「ごま」に傍点]
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作者《わたくし》は、此《こ》の一篇を公《おおやけ》にするのに、幾分の躊躇《ちゅうちょ》を感じないわけには行かないのだ。それというのも、実《じつ》は此の一篇の本筋は作者が空想の上から捏《こ》ねあげたものではなく、作者の親しい亡友《ぼうゆう》Mが、其の死後に語ってきかせて呉《く》れたものなのである。亡友《ぼうゆう》Mについては、いずれ此の物語を読んでゆかれるうちに諸君は、それがどのような人物で、どのような死に方をしたのであるか、おいおいとお判りになってくれることであろう。それにしても「死後に語ってきかせたもの」などと言うのは大変|可笑《おか》しいことに聞えるかも知れないが、これも事情を申して置かねばならないことであるが、諸君もかねてお聞きおよびかと思う例の心霊《しんれい》研究会で、有名なるN女史という霊媒《れいばい》を通じて、作者がその亡友から聞いた告白なのである。その告白は、実に容易ならざる国際的怪事件を語っているので、命中率九十パーセントと称せられる霊媒《れいばい》N女史の取扱ったものだから充分事実に近いものだとすると、この怪事件は公表するには余りに重大な事柄で、或いは公表を見合わせた方が当《あた》り障《さわ》りがなくてよいかも知れないくらいなのである。しかし一方に於《おい》て、N女史の招霊術《しょうれいじゅつ》は、単なる読心術《どくしんじゅつ》にすぎないという識者《しきしゃ》もあるようだから、それなれば、N女史の前に坐った作者の心中《しんちゅう》にかくされていた妄想《もうそう》が反映したのに過ぎないとも云えないこともないのである。兎《と》も角《かく》、そこのところは諸君の御判断におまかせするとして、怪事件の物語をはじめようと思うが、一種の実話であるだけに、筋ばかりで、描写が充分でないのは我慢していただきたい。
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古ぼけた大きな折鞄《おりかばん》を小脇にかかえて、やや俯《うつむ》き加
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