から、そんなにこわがることはない」
 おじさんに元気づけられて、三四郎はようやく顔をあげ、映写幕へそっと目をやった。もはや天空に火の魔の乱舞は見られなかった。兄月の冷たい光だけが、空にあった。下半分はアトランチス大陸が、鯨の背のように黒ずんで、海の上に浮かんでいた。
 このとき海が、にわかにふくれ上った。高く高くふくれ上がる。あたらしい大陸が出来て、それがうごき出したのかと思ったくらいであったが、事実は黒い海水がふくれあがったのだ。高く高くアトランチス大陸の山脈よりももっと高く! そしてそのふくれた海は、ずんずんと大陸へ近づいて来るのであった。
「あっ、津波だ。すごい津波だ。アトランチス大陸が、津波にのまれてしまう」
 三四郎は、思わず叫んだ。
「そうだ。アトランチス大陸が、今や波にのまれてしまうのだ。そしてすばらしい文化を持ったその大陸が、永遠に波の下にのまれてしまうのだ。人もけだものも、それから鳥やコウモリまでも、みんな翼の力が及ばないで、波の下にのまれてしまうのだ」
 そのとおりだった。三四郎は、おそろしくも悲しきアトランチス大陸と人と生物との最後を見とどけた。そのために彼は、全
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