よろこびがなくなっては、もうおしまいだな。しかしだ、生きているのがいやになったなどというのは人間として卑怯だと思う。また人間というものは、もっと広い世界へ目をやり、遠い大きな仕事のことを考えなくてはならない。いや、そんなお説教をするよりも、今おじさんが三四郎君を一万年ばかり前の世界へあんないしてあげよう。そこで君は、どんな感想をもつだろうか。あとでおじさんは、君に質問するよ」
「ほんとですか。一万年も前の世界へ行くって、そんなことはできないでしょう」
「いや、それがちゃんと、できるのだ。おじさんがこしらえた器械をつかえば、そういう古い時代の有様が見えるんだ。映画のようにうつるんだ。ただ残念なことに、その時代の人々がしゃべっている声が、十分に再生できないんだ」
「じゃあ、トーキではない無声映画というのがありますね。あれみたいなものですか」
「全然無声というわけでもない。映写幕にうつる古代の人々が、ものをいうときに、口をうごかす。その口のうごかし方から、彼らがどんなことをばをしゃべっているのかを、ほんやくすることもできるのだ。しかしこのほんやくことばは、画面の上で、私たちの方へ向いていて、
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