にはっきりあうと、道をあるいていく人々の姿が見えるようになった。ただし、斜《なな》め上から見たところがうつっている。ちょうど、ビルの三階ぐらいから地上を見下ろしたような調子であった。
「アトランチス人だ。りっぱな服装をしているだろう。エジプト時代よりもずっと文化が高かったことが分る。男と女の区別も、ちゃんと分るだろう」
 おじさんの説明に、三四郎はかたずをのんで画面に見入っていた。美しくかざって白馬が通る。
「ほら、道で立ち話をしている。二人の男の話が唇のうごきで分る。よく耳をすましていたまえ」
 おじさんが注意した。と、なるほど、かすかではあるが会話が聞える。
“なげかわしいことだ。こんなに道義がすたれては、生きて[#「生きて」は底本では「生きで」]いるのがいやになった”
“あくことをしらないこの頃の人間の欲望。神をおそれない人々。いくら美しく飾りたてようと、これは人間の世界ではない。禽獣《きんじゅう》の世界だ”
“今に、天のおさばきがあろう。いや、すでにそのきざしが見える。君は気がついているか”
“うん。君は弟月《おとうとづき》のことをいっているのだろう。弟月が、だんだんあやしい光を強め、大きくふくれて来るわ。気味のわるいことだ”
“天のおさばきは近くにせまったぞ。今となってはおそいかもしれないが、わしはもう一度人々にそれを知らせて、反省をうながそう”
“それがいい。わしも生命のあるかぎり、悪魔にとりつかれている人を一人でもいいから神の国へ引きもどすのだ”
 二人のアトランチス人は、そこで話をやめて、しずかに祈りをささげると、右と左とに別れた。したがって、そのあとの声は聞えなかった。
 三四郎の目には、いつしか涙がやどっていた。信仰のあつい二人のアトランチス人の胸中を思いやっての涙であった。

   大陸の最後

「こんどは、弟月の方をおっかけよう。さっきよりもずっと大きくなっているはずだ」
 おじさんはそういってスイッチを切りかえた。
 地平線が黒く横にのびている。その上に、月は高くかがやいていた。
「これは兄月《あにづき》の方だ。弟月はもっと左の方にある」
 画面が横にうごいて行く。と、とつぜん画面が明るくなった。そしてちょうちんが画面いっぱいに出てきたと思った。ところがそれはちょうちんではなく、弟月の方だった。兄月にくらべて、もう二三百倍の大きさになってい
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