る。
「これが弟月ですか。大きいですね。なぜこんなに大きくなったんです」
「弟月はだんだん下ってきたのだ。地球の引力によってひきよせられたんだ。見ていてごらん。今に弟月は地球にぶつかるから……」
「おじさん。月が地球にぶつかったら、どんなことがおこるんですか」
「見ていたまえ。もうすぐだ」
画面は四五回も切りかえられた。そのたんびに弟月は化物のように大きくなった。まるで地球が空にうつっているようであった。
その怪月の下に、アトランチス人たちが[#「アトランチス人たちが」は底本では「アトランチス人がたちが」]集ってふるえ、のろいの声をあげ、やけになって人殺しをし、またしずかに神に祈りをあげているのが見えた。方々に、えんえんと火がもえあがっていた。神へささげるかがり火か、それとも賊が民家に放った火か。ものすごい光景に、三四郎はたびたび目をふせねばいられなかった。
「ほら、始まった。弟月が地球に触接《しょくせつ》したよ。あれ、あのように地球にぶつかっている。しかも弟月は自転をつづけているんだ」
おじさんの説明の声がふるえている。
「あっ、おそろしい!」
三四郎は、両手で自分の頭をおさえて、がたがたふるえだした。
見よ、弟月は地球にぶつかっている。そこは大洋らしい。すごい火花と焔と電光が、たがいに交じりあって、目もくらむほどだ。波はさかまき、雲とも湿気とも煙ともつかないもやもやしたものが触接面のところから空高くまいあがる。月は、ときどき空の方へとびあがり、そのあとでまた落ちて来て、地球に衝突する。そのたびに、すごい火の地獄絵がひろがる。月がとびあがったときに見えたが、あの死灰のようであった月が、今はその下半分が炉の中へほうりこんだ石炭のように赤く赤くもえあがっているのだった。
「おお、弟月の最後が近づいた。大爆発をして、こなごなにとび散るよ、あの弟月が……」
おじさんの声が終らないうちに、画面は目もくらむ閃光で、ぴかぴか、くらッくらッと光り、画面に、ものの形を見わけることができなかった。三四郎は、天変地異のおそろしさに、大きな声をあげてその場にうち伏した。もう画面を見つづける勇気はない。
「……もうすんだよ。弟月は、かげも、形もなくなったよ。これからが最も大事なところ。すごい光景が見えるんだ。元気を出して、もう一度画面を見てごらん。なにしろ一万年前の出来事なんだ
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