「それはそうだろう。月がなくなるなんて、たいへんな事件だ。それがために、当時地球に住んでいた人類は、どんな目にあったか。どんな苦しみにあったか。見ていたまえ、今にそれが見えるから……」
「お月様は今すぐこわれるんですか」
「まだ、ちょっと間がある。――この器械は途中をどんどんとばして行くが、今うつっているときからかぞえて、約百年のうちに、月の一つがこわれる」
「百年間も、この器械の前に待っているのですか」
「いや、この器械では、あと十五分ぐらいで百年後の光景がうつり出すことになっている。今おじさんは、地表《ちひょう》の光景をもっとはっきり出そうとして一生けんめいやっているのだよ。ほらほら大陸の海岸線ははっきりしてきたろう。白く光っているのが海、くらいのが陸地だ。このへんは、地球上のどこだか分るだろう」
 おじさんは、えんぴつを手にもって、画面をさした。
「ああ、分りました。ヨーロッパですね。このへんがスペインにポルトガル。おやおや、ヨーロッパ大陸と南のアフリカ大陸とがつながっていますね」
「まあ、そうだ。さあ、これから画面の方を[#「画面の方を」は底本では「画面の方へ」]移動して行くよ。何が見えるか。」
「大西洋だ」
「そうだ、大西洋だ。だが、これからよく気をつけて見ていたまえ」
「おやおや、へんだぞ。大西洋の中に大陸がある。これは一体どうしたんでしょう」
 三四郎は、大西洋のまん中に、相当大きな大陸のあるのを見て、ふしぎがった。
「あれはアトランチス大陸だ。当時、世界の文化はアトランチス大陸に集っていたのだ。世界の中心だったんだ。エジプトの文化も、ユーラシア大陸の文化も、まだ誕生前だったんだ」
「でも、今大西洋には、そんな大陸はないじゃありませんか。どうしたんですか」
「さあ、それが大事件なんだ。まあ、しばらく見ていたまえ。器械を調整して、アトランチス大陸の地上へ焦点をあわせてみよう」
 おじさんは、器械の前で、いそがしく調整をはじめた。たくさんある目盛盤をいくどもうごかし、そして計器の針をみては、また目盛盤をうごかすのであった。その間に、映写幕にうつっている像はいくたびかぼんやりとなり、またいくたびか川のように流れ、それからまた、たびたび消えた。
 だが、そのうち像は次第にはっきりして来た。山が見え、川が見え、それからりっぱな建築物が見えだした。やがて焦点が地上
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