口をうごしかしている人にかぎるんだ。だからうしろ向きの人のいっていることばは分らない。そんなわけで、ときどき、切れ切れながら、彼のいうことばが分るんだ」
「ふしぎな器械ですね。しかしそれはおもしろいですね。しかしほんとうかしら」
「見れば、ほんとだと分るだろう」
「ああ、そうか。その器械は航時器(タイム・マシン)というあれでしょう」
「あれとは、ちがう。顕微集波器《けんびしゅうはき》と、私は名をつけたがね。つまりこの器械は、一万年前なら一万年前の光景が、光のエネルギーとして、宇宙を遠くとんでいくのだ。そして他の星にあたると、反射してこっちへかえってくる。星はたくさんある。ちょうど一万年かかって今地球へもどってくるものもある。それをつかまえて、これから君に見せてあげよう」
一万年前の大陸
おじさんのいうことは、よく分らなかったけれど、おじさんが見せてくれた映画――ではない、「うごく一万年前の光景」は、なかなかおもしろくて、よく分った。それは、大事なところになると、おじさんが説明をしてくれたから、なおさらよく分ったのだ。
約一万年前の世界が、おじさんの器械の映写幕の中に見えているのだ。なんというおどろき、なんというふしぎ!
その場面の多くは、上から下を見た光景であった。おじさんは、ときどき器械のスイッチを切りかえて、ななめ上から見た光景も見せてくれたが、これはすこしだけであった。ま横から見たところや、正面から見たところは、ほとんど出てこなかった。それは横へ出る光は、他の部分から出る光にじゃまをされて、純粋な形では出にくい。だから見えにくいのだということだった。
「なんでしょうね、山脈のむこうに二つ光っているものがありますね」
三四郎は、おじさんにたずねた。
「あれは月だよ」
器械の目盛をあわせていたおじさんは、かんたんに答えた。
「うそをいってらあ。月なら、ぼくだってわかりますよ。月が二つもあるわけがないじゃありませんか」
「ところが、それがあるんだよ。この光景にうそはない。一万年前には、地球のまわりを月が二つ、まわっていたんだね」
「ふーン。おどろいたなあ」
「二つの月のうち、その一つは、なくなった。見ていたまえ、やがてそれが見えるはずだ、一方の月がこわれて見えなくなるところがねえ」
「そんな光景が見えるんですか。ぼく、背中がぞくぞく寒くなった」
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