は妖婆アダムウイッチが、床の上に仆《たお》れたまま、まだグウグウ睡っている。電気時計の指針は、もう午前六時を指している――また禁句禁句――のに、彼は目が覚めない。受信機のスイッチをひねって置けば、この辺でラジオ体操が始まり、江木《えぎ》アナウンサーのおじさんが銅羅声《どらごえ》をはりあげて起してくれるのだが――彼、梅野十伍はいつもそうしている。但し床から離れるのは彼ではなくて、小学校にゆく彼の子供である。彼はラジオ体操を聴けば安心して、更にグウグウ睡れるのである。――生憎《あいにく》妖婆は前の晩に深酒をして、寝るときにスイッチをひねっておくことを忘れたので、ラジオ体操が放送されていても彼の妖婆には聞えなかった。そんなわけでとうとう妖婆は午前六時に唱うべき天帝に約束の三度の呪文をあげないでしまう。
 その結果は、お城の下にどんな光景を演出するに至ったであろうか。
 ルリ子はうららかな太陽の光を浴びながら、梅田十八と抱き合っているうちに、急に梅田の身体が消えてしまって、弾みをくって瞠《どう》とベンチの上に長くなって仆れる。そのとき彼女の身体の下から、二十日鼠が飛びだした。そしてその二匹の二
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