子――娘さんの名である――を伴って散歩に出かける。二人は歩き疲れて、月明るき古城を背にしてベンチに並んで腰を下ろす。そしてピッタリと寄りそい甘い恋を囁《ささや》きかわすのだった。
 ところが城の中にいた妖婆アダムウイッチが遥《はる》かにこれを見て、大いに嫉妬する。そしてたまりかねて、自暴酒《やけざけ》を呑む。あまりに酒をガブガブ呑んだので、蒟蒻《こんにゃく》のように酔払って、とうとう床の上に大の字になって睡ってしまう。
 お城の下では、十八とルリ子が、あたり憚《はばか》らずまだピッタリと抱き合って恋を語っている。月が西の空に落ちたのも知らない。そのうちに東の空が白み、夜はほのぼのと明けはじめ(ああ夜が明けはじめるなんて、くだらないことを思いついてしまったものだ。本当に夜はまだくろぐろと安定しているのであろうな。カーテンを開いて窓の外を覗いてみよう。うむ今のところ、まだ大丈夫である)
 若き二人の抱き合っている傍には、大きな柘榴《ざくろ》の樹があって、枝にはたわわに赤い実がなっている。その間を早や起きの蜂雀の群がチュッチュッと飛び戯れている。まるで更紗《さらさ》の図柄のように。
 お城で
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