穴をあけ、二、そのスクリューを叩きこわすか、その実践的手段であった。楊《ヤン》博士は、はたと行き詰って、しばらくは生臭い大きな掌でもって頭をぐるぐる撫でまわし、そして左右の目くそを払いおとした。上海脱出以来すでにもう幾旬、魚釣りばかりに日を送っていたために、あれほどすごい切れ味を見せていた博士の能力もここへ来てだいぶん焼鈍されたように見えたが、実はそれほどでもない。すべて物を考えるには、推理の入口というか、思索の基点というか、とにかく一種のキャタライザーが入用なのである。このキャタ公が都合よく応援に来てくれないと、すべて思索なり推理なりが、停頓閉塞する。
 むつかしい反省はそれ以上しないことにして、楊《ヤン》博士はあたりを見廻した。なにかキャタ公が来ていないかと心待ちして。
 そのとき博士は、屏風岩の上に一冊の雑誌が落ちているのに気がついた。なにげなくとりあげてみると、たいへん物珍らしい外国雑誌であった。表面には中国婦女子の顔が大きく油絵風に描いてあって、たぶんそれは誌名なのであろうが、“SIN・SEI・NEN”と美国文字がつらねてあった。
「ほう、どうしてこんなものが落ちていたのかな
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