が、準備のできたことを知らせてきた。
「楊《ヤン》閣下、これからすぐ、第七十七回目の練魚がやれます」
「よおし、ではそっちへゆこう」
 楊《ヤン》博士は、のそりのそりと練魚司令部へ足をはこんだ。そこは海岸の中へずっとつきだした弁天島のような小嶼《こじま》があった。教官連をはじめ、それぞれの係員はそれぞれの配置について、いまや命令の下るのを待つばかりになっていた。
 楊《ヤン》博士は、水うち際の適当なる場所につっ立った。
「では、始めるぞ」
「みんないいか、用意!」
 海面には虎鮫が、将棋の駒のようにずらりと鼻をならべて左右の戦友をピントの合わない眼玉で眺めている。
「いいねえ。では――はいッ、キャメラ!」
 ――という具合になって来たが、練魚の最初においては、トーキー撮影とたいしたかわりがない。しかし、そのあとは断然ちがってくるのであった。
 ガガーン、ガガーン。
 それが虎鮫どもへの信号であった。鮫どもはいっせいにスタート・ラインをはなれて前方へわれ先へとダッシュした。ものすごいスパートである。鮫膚と鮫膚とは火のようにすれあい鰭と鰭との叩きあいには水は真白な飛沫となって奔騰し、あるい
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