撃沈せられんことを。而して右に関し、軍船一艘ごとに金的貨二万元を贈り、なお且つ副賞として、潜水艦には三万元、駆逐艦には一万元、内火艇十元、短挺四元、上陸部隊満載のものは倍増し、軽巡に於ては二十万元、航空母艦に……(ここで博士は大きな欠伸を一つして、途中を読むのをぬかし、その最後の行に目をうつしてみると)茲《ここ》に副官府大監馮兵歩を使として派遣し、楊《ヤン》先生を中国海戦科学研究所大師に任ずるものなり――
博士はその長い辞令を馮兵歩《ひょうへいほ》の前にぽんと放りだして、
「なんだい、これは」
といった。
馮兵歩は、そこで慌てながら、大辞令の意味をいろいろと詳細に説明をして博士に聞かせたが、博士はいっこう合点のゆかぬ面持であった。
馮大監は、博士ともいわれる人の、理解力の貧困さに呆れかえったが、そのうちに、彼は、いずくんぞしらん楊《ヤン》博士が中国がいま大日本帝国と大戦争中であることをぜんぜん知らないらしいことに気がついた。
そこで気がついて、彼は蘆溝橋事件からはじまった中国対東洋鬼国との戦闘経過をのこりなく一部始終を説明したところ、博士ははじめて手をうって、
「なるほど、承ってみれば、戦争科学というものは、げにげに面白いもんだのう」
と、たいへん興味を湧かしたようであった。ことに、首都が雲南省のはずれのところまで移動したことについても津々たる興味をもち、もしもう一度空爆をさけて西に遷都をする必要を生じた暁には、首都はどこに移るのか、もしそれがバモとかマンダレに移ったときにはそこはインド王国内であるから、首都は首都であっても果して地理学上、中国の首都といえるかどうかについて、疑義をもったようであった。
しかし馮大監は、それは本日の使命の外のことであるからといって、解答を辞退した。実をいえば、彼にはそれがどういうことになるのかよく分らなかったのでどうせ返答のしようがなかった。
「ええ、ようござる、ようござる。なんとかやってお目にかけると、チャンスカ某《なにがし》にいっておいて下されい」
と、楊《ヤン》博士はすこぶる快諾の意を表したのであった。
それを聞いた馮大監は、大いに面目を施して忝《かたじけな》いと、大よろこびで辺境の首都さして帰っていった。
そこで楊《ヤン》博士は、俄然仕事ができて、たいへん愉快そうに見えた。
「軍艦を殲滅する一大発明をなし、
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