をくりかえし行うのであった。
鮫どもが腹をすかせたときは、すぐそれと分った。そうなると鮫どもは一刻も早く、あのガガーン、ガガーンという進撃の銅鑼《どら》の音を聞きたいものをと、その銅鑼《どら》のぶら下げてある弁天島のまわりを押すな押すなと蝟集して、ひどいときには島の上まで虎鮫がのぼってくることさえあった。
「おい、どうじゃな」
と、楊《ヤン》博士は、若き歯科医務長にたずねた。
「ああ楊《ヤン》閣下、いやもうたいへんな発達ぶりです。今朝の診察によりますと、全体的に見まして、鮫の歯の硬さは、二倍半も強くなりました。なかには四倍五倍という恐ろしい硬度をもっているものもあります。もう実戦に使いましても大丈夫でしょう」
「うむ、そうか」
楊《ヤン》博士はわが意を得たりというふうに、頷いた。博士は、さらに肥った大男をよんだ。
「おお黄生理学博士。どうです、このごろの虎鮫の反射度は?」
「ああ閣下、それならもう百パーセントだとお答えいたします。ガガーン、ガガーンと銅鑼《どら》を聞かせますと、彼らの恐ろしき牙は、ただちにきりきりとおっ立ち、歯齦《はぐき》のあたりから鋼鉄を熔かす性質のある唾液が泉のように湧いてくるのであります」
と、黄博士は、虎鮫の条件反射について詳細なる報告をなした。
「そうか、ようし、では訓練はこれくらいでやめて、あとはいよいよ軍船にむかって実戦をやらすばかりだ」
楊《ヤン》博士は揚々と、条件反射をやる虎鮫七千頭をひきつれ、またもとの赤湾を前にのぞむ屏風岩に帰ってきた。
大襲撃の銅鑼《どら》が鳴ったのは、その次の日の明け方であった。
それは近代海戦史上空前の大激戦であった。わずか三十九分のうちに、赤湾の中に游よくしていた軍船百七十隻は、一隻のこらず、船底に大孔をあけられ、スクリューをかじりきられて、海底深く沈んでしまった。
楊《ヤン》博士は、いまや得意満面、手の舞い足の踏むところを知らなかった。さっそく祝宴を命じたところへ、猛印首都の軍政府委員長チャンスカヤ某から、電報がついた。さだめし祝電であろうと思って読んでみると、
「貴様の撃沈したのは、あれはみな、わが海軍の精鋭軍船である。貴様のために、わが政府は、ついに最後の海軍をことごとく失ってしまった。なんという大莫迦者であろう。ただちに貴様討伐隊をさしむけるから、そこを動くな!」
という意外な叱
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