は戦友の背中を飛魚のように飛び越えてゆくものあり、魚雷の如く白き筋を引いて潜行するものあり、いや壮絶いわん方なき光景だった。
五十人のキャメラマンは、しずかにクランクモーターの調子を見守っている。言い忘れたが、これらのキャメラマンはことごとくガラス張りの海底にカメラを据えているのであった。ただ集音器だけは、水上に首を出していた。
虎鮫隊は、どこまで走る。
ちょうどその前面にあたって、一隻の大きな鋼鉄船の模型が、上から巨大な起重機でもって吊り下げられ、もちろんその船底と廻るスクリューとは水面下にあった。
がんがん、がりがりがり、と激しい衝撃音がする。
くわっくわっくわっ、と、オットセイのような擬音のうまい鮫もまじっていた。そのとき楊《ヤン》博士は、ころよしと銅鑼《どら》のまんなかをばばんじゃらじゃらと引っぱたいた。
いっせいに、真にいっせいに、いままで形相ものすごく、模型船をかじっていた虎鮫どもは、かじるのをやめて、さっと身を引き、粛々として、またスタート・ラインに鼻をならべて引返してくるのであった。実に、なんというか、まことに感にたえる楊《ヤン》博士の訓練ぶりであった。
虎鮫どもが、一汗入れているうちに、五十人のキャメラマンによって海底から撮影されたただいまの猛攻撃のフィルムは、ただちに上にはこばれ、まず第一に現像工場内にベルトでおくられ、わずか一分間で反転現像された。それから第二の審判室に送られ試写幕にうつる鮫どもの活躍ぶりを見ながら百五十人の審判員によって、審判記録されるのであった。
いったいなにを審判するのかというと、第何号の虎鮫がいかに猛烈に船底をかじったか、また、スクリューを砕いたかということを高速度撮影された実物映画によって逐一選抜記録するのであった。それはなかなか厳重をきわめたものであって、あとで百五十人の係員の作製した結果を平均するからして、その成績はしごく公平に現われた。
成績がわかると、鮫どもはわずかに一頭ずつ通れるキャナルへ導かれて、背中に書いた番号によって成績表をつくり、その成績に応じて人間の手や足や、または小指などを、褒美として口の中に抛げこんでやるのであった。
虎鮫どもには、それがどんなにか娯しみだったかしれないのである。褒美の肉をもらって、彼らはいたく満足した。そして彼らが再び腹の減ったと思う頃に、また今のような訓練
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