本当は僕はそれを三つに折り、両端の二つを丼の中に入れ、そして真中の部分をひそかに貯えはじめたのだった。だから二つに折れているものを継いでみると、箸の寸法が足りないことがすぐ分る筈だった。しかし監守は箸が二つに折れていることに安心して、寸法の足りないところまでに気がつかなかった。
 辛抱に辛抱を重ねて、短い杉箸を集めていった僕は、もうよかろうというところに達した。こんどは方針をかえて、夕飯のときの御飯をすこしずつポケットに忍びこませた。そして監守が膳を下げ、身体を点検して帰ってしまうと、その飯をとりだして、練りあわせて練飯を作った。そしてよく練れた練飯でもって、杉箸の片を四方一束に貼りあわせ、且つ一本ずつ少しばかり端を不揃いにして置いて、だんだん先へ長く継いでいった。結局一と月かかったけれどこんな風にしてとうとう二尺あまりの丈夫な棒切れを作ることが出来た。幸いに隠し方がうまかったので、監守に見つからずに済んだ。これさえあればもうしめたものである。これを手にもって、例の四角な穴から外へだし、腕金の錘りをつきあげれば扉は開く筈だった。
 あとは機会を待つだけのことだったが、いよいよ今夜は、待
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