》一本|小楊子《こようじ》一本でも許されないのだ。――遂にこの計画は実行ができないのであろうか。
 ところが人間の知恵なんて恐ろしいもので、僕はとうとう二尺ばかりの棒切れを手に入れることができたのだった。といって監守を買収したのではない。だれの厄介にもならずに僕一人で二尺の棒切れを作りあげたのだった。
 そういうと、僕がまるで手品でも使ったように聞えるが、――そうだ、これはやはり手品のうちかも知れない。とにかく僕は考えるところがあって、母親のところへ使を立て、腹をこわしているので朝と昼とはうどんを差入れてくれるように頼んでもらった。すると返事があって、監守が伝えた。
「オイ北川、悦んでいいぞ、これから朝昼二食はうどんを取ってやる。但しいつも一杯だけだぞ」
 それから僕は二食をうどんにし、夕方だけ飯を食べた。本当は、別に腹をこわしているわけでもなく外《ほか》に思わくがあったのだった。うどんを食べるには、必ず杉の割箸がついてくるが、僕は食べ終ると、これをポキンと二つに折って丼の中へ投げ込み、下げてもらった。が、実はそこに種があるのだった。箸は二つに折れて、丼の中に入っているようであったが、
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