右手をあげてうちふった。
 誰だろう?
「呀《あ》ッ、――帰って来たのだッ」
 僕はその学生が誰であるか、やっと分った。あまり思いがけない服装をしているから分らなかったが紛う方なき秀蓮尼だった。
 僕は階下へ駆けだしてゆくと、やがて上ってくる彼女と鉢合わせをした。
「よく帰って来たね」
「ええ、……心配していた?」
 僕は彼女を伴って二階へ案内した。
 男装の彼女は非常に元気だった。尼僧なんかどこかへ振り落してしまったようであった。
「よくそんな格好で帰って来たねえ」
「ホホホホ、これ貴方の洋服よ。こんどはあたしが貴方のを借りちまったわ。しかし実に大変だったのよ。これが無かったら、あたしうまく脱出できたかどうか疑問だわ。つまり、こうなのよ。――あたし序《ついで》に、貴方の仇敵《かたき》もとってきたわよ」
「ええッ。――それは何のこと?」
 彼女は冷い炭酸水を摂《と》りながら、意外なる出来ごとについて、僕に話して聞かせるのだった。――
 それによると、あの森虎造という男は、僕の亡き父準之介を殺した悪人だということだった。僕は今まで、父が米国で脳溢血で斃《たお》れたこととばかり思っていたが
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