危く黄風島の脱走に成功した僕だった。珍らしく、一台の飛行機が空を飛んでいるのが見える――全く秀蓮尼のお陰だった。女装していればこそ、厳重な脱走青年監視の網をくぐって無事、港にまで逃げのびられたのだった。極光丸は聞くとすぐ知れた。あとは板の上を滑るようにスラスラとうまく運んで、次の朝この君島へ着いたばかりか、船長の説明によって、このような立派な館に客となることができたのだった。
これらの破格の取扱いは、すべて秀蓮尼の信用によるものらしかった。不思議なる人物秀蓮尼!
彼女はどうしたことだろう。それからこっちへ既に七日、いまだに彼女の消息はなかった。僕は毎日のように、沖合から人の現われるのを待ちつづけているのだった。
中天に昇った太陽が、舗道の上に街路樹の濃い影を落しているとき、一台の自動車が風を切ってこの通へとびこんで来た。見れば幌型《ほろがた》の高級車だった。それは館に近づくと、急に速力を落し、スルスルと滑って、目の下に着いた。――すると中から、元気よく一人の学生が飛び出して来た。
その学生は、帽子も被っていない丸坊主だったが、いきなり僕が頭を出している二階を見上げるとヒラヒラと
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