古ぼけた珍らしい形の鍵だった。そしてもう一つ奇妙なことに、その鍵の握り輪の内側が、丁度若い女の横顔をくりぬいたような形になっていた。そこがたいへん僕の気に入って、無断で貰ってきたのだったが、その鍵だけは監視人の眼も胡魔化《ごまか》しおおせて、いまだに僕の手にあり、僕はそれを唯一の玩具――いや宝物として退屈きわまる毎日をわずかに慰めていたのだった。
 その後、ついに会えないかと思った母親にも、また森おじさんにも、たった一度だけ会う機会があった。しかもそのときは二人揃って一緒に、この病室を訪れた。僕は天にも昇る悦《よろこ》びで、僕は気が変ではないから直ぐ出してくれるようにと熱心に頼んだのである。しかしどういうものか二人は僕の頼みにすぐには賛成してくれなかった。反《かえ》って二人して僕に詰問するような態度で、
「ねえ準一や。お前はおじさんの室から、何か盗みだして持ってやしないかい。そうなら早くお返しするんだよ。でないと妾《わたし》は困ってしまう……」
「北川君。そいつは何処に隠してあるんだか話してくれんか。教えてくれりゃ、なんとか早く癒《なお》って退院できるように骨を折ってみるが……」
 と
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