入れられてしまったのだった。
「僕は気が変じゃないぞ。早く母親を呼べ。――僕を変だと診断するのか。そんな院長こそ変だ!」
僕は腹立ちまぎれに、そんな[#「そんな」は底本では「そんに」]風に怒鳴りちらした。だが、その結果は反《かえ》ってよくなかった。僕はますます気が変のように見られ、しまいには自分自身でも、或いは僕は変になっているのじゃないかと錯覚《さっかく》を起こしたくらいだった。
はじめは腹が立って腹が立って、ろくろく飯も咽喉を通らなかったが、そのうち、いつとはなしに諦《あきら》めの心ができて、乱暴することを控《ひか》えるようになった。しかし監禁室の生活はとても退屈だった。思ってもみるがいい。三度の飯をたべる以外に何の仕事がある訳ではなく、本も新聞もないのだ。窓から外を見ようとすれば、塀《へい》が意地わるくふさいでいた。
この退屈な監禁室の生活に、ただ一つ僕を慰めてくれたものがあった。それはひそかに身に隠して置いた一個の鍵だった。それは実は森おじさんの戸棚にもぐりこんだとき、隅に落ちていたのを失敬したものであるが、極く昔、和蘭《オランダ》あたりで作られたものでないかと思うほど、
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