れるような戸棚の中や梱《こうり》の底などをソッと明けてみるのが非常に楽しみだったのである。その日も留守を幸い、こっそり僕等の部屋を抜けだし、森おじさんの書斎へ忍びこんで、散々に秘密の楽しみを味わった後、そこにあった安楽椅子に豪然と凭《もた》れて、おじさん愛用の葉巻をプカプカやっていた。すると誰もいないと思っていた扉が急に開いて、その向うから突然四五人の詰襟服《つめえりふく》の男が現われ、僕の顔を見ると、
「ああ、此奴《こいつ》だ。こいつを連れてゆくのだ。それッ……」
 と叫んだ。その声の下に、ドッと飛びこんできた詰襟服の一団は、有無をいわさず手どり足どり、僕を担《かつ》ぎあげて、表に待たせてあった檻《おり》のような自動車の中に入れてしまった。僕はあまり思いがけない仕打ちに愕《おどろ》いて、大声で喚《わめ》きたてたが、母親は不在だったし、それから生憎《あいにく》と森おじさんも留守だったので、誰も僕の味方になってくれる者もなく、結局僕を知らない連中は、あれが変なのかといわぬばかりに好奇の眼を輝かせて見送るばかりで、誰一人僕を助けてくれるものはなかった。そうして僕は、やすやすとこの精神病院に
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