ただけるでしょうね」
「仕方がありません。前に云ったとおり、僕は庵主さんの命令に、絶対に服従します」
「結構です。――では、仕度にかかりましょう」
 そういうと、庵主は僕をさしまねいて、隣室の戸棚から、一つの葛籠《つづら》を下ろすと、これを弥陀の前にまで担がせた。僕が蓋を明けましょうかというと、まあ暫くといって止めた。
「これから貴方を変装させるのよ。それですっかり裸になって下さい」
 僕は庵主の顔を見たが、諦めて学生服を脱ぎ、それから襯衣を脱ぎ、遂に下帯一つになってしまった。
「さあ、それでいい。……ではこれから着つけにかかります。そこでこれで目隠しをしましょう。すっかり済むまで、貴方に見せたくないのよ」
 僕はただ溜息をつくだけだった。どんな大袈裟《おおげさ》なことが始まるかしらないが、云うとおり目隠しをする。すると庵主は、それを解いて、もう一度ギュッと縛り直した。――僕はもう何も見えなくなった。ただ鼓膜だけが頼みであった。
「ようございますか――黙ってさせるのよ」
 眼が見えなくなると、庵主の円らかな頭は見えず、声だけが聞えた。するとその声だけを聞いていると、庵主は実に若々しい女
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