開くと、スルリと外へ出た。そして腰をかがめて、詰所の窓下を通りぬけ、あとは廊下をなるべく音をたてずに疾走したのだった。
「なにをしとるんだ。――」
そのとき詰所の硝子窓がガラリと開いた。
「おい。……誰だ。呀《あ》ッ、逃げたなッ。――」
監守の怒号する声、――それにつづいて乱暴にも、ダダーン、ダダーンと拳銃の響き!
ヒューッ、ヒューッ――、廊下を飛ぶように走ってゆく僕の耳許《みみもと》を掠《かす》めて、銃丸《じゅうがん》がとおりすぎた。そして或る弾は、コンクリートの壁に一度当ってから、足許にゴロゴロ転がって来た。いま僕は生死の境に立っていた。無我夢中に、どこをどう突走ったか覚えがないが、建物の外へ出ると、真暗な庭にとびだし、それから、つきあたったところの高い塀にヤッと飛びついて、転がり落ちるように塀の外に落ちた。そのとき精神病院の塔の上で、ウーウーウーとサイレンが鳴りだしたのを聞いた。――僕はそれを後にして、ドンドンと祭の夜の灯の街の方へ逃げだしていった。
そのとき僕の服装は、病院の患者に支給される西洋寝衣だったので、ある橋の畔まで来たとき、それをすっかり脱いで、小脇に抱えて来
前へ
次へ
全46ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング