た紙包を解いて予《かね》て用意の詰襟《つめえり》の学生服に着かえ、寝衣の方は紙包みにし、傍に落ちていた手頃の石を錘《おも》し代りに結び、河の中へドボーンと投げこんでしまった。そこで、どこから見ても、学生になりすましたのだった。僕は大威張りで、明るい灯の街へ入っていった。
 夜の街は、沸きかえるような賑かさだった。両側の飲食店からは、絃歌の音がさんざめき、それに交って、どこの露地からも、異国情調の濃い胡弓《こきゅう》の音や騒々しい銅鑼《どら》のぶったたくような音が響いて来た。色提灯を吊し、赤黄青のモールで飾りたてた家々の窓はいずれも開放され、その中には踊り且つ歌う人の取り乱した姿が見えた。また街路の上には、音頭を歌って手ふり足ふり、踊りあるく一団があるかと思うと、また横丁から大きな竜の作りものを多勢で担ぎ出してきて、道路を嘗《な》めるように踊ってゆくのだった。
 ラランラ、ララ……。
 シャットシャット、ヨイヨイヨイ。
 ヒョウヒョウヒョウヒョウ。
 いろんな掛け声が、舗道から屋根の上へと狂気乱舞する[#「狂気乱舞する」はママ]。僕の心は脱走者であることさえ一時忘れ、群衆の熱狂にあおられ
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